現代日本社会研究のための覚え書き――4.市民社会


今回は未だ内容がスカスカで、ストーリーもできていないしキーワードも出てこないのだが、どうせ覚え書きなので箇条書きが混在する形でひとまずアップしてみる。このテーマでは、ネット上の情報に頼って書けるのはこの位が限界かな。データ類は十分ではないにせよある程度集められたので、あとは理論面を補強すればいいだろか。と言うか、これは独立したテーマとして扱うのが難しかったかもしれない。でも重要だから、時間がかかってもまとめられるように努力しよ。



固有な空間としての「社会」と、その流動性

  • 人間関係が難しくなったと感じる人が6割(内閣府〔2007〕、第6図*1


その原因として、「モラルの低下」と「地域のつながりの希薄化」が大きいと考えられている(内閣府〔2007〕、第7図)。

そのほか、「人間関係を作る力の低下」といった能力面や、「核家族化」「親子関係の希薄化」「兄弟姉妹の不在」などの家族内部の変容、「学校など教育環境の悪化」のように教育面も挙げられている(「ビデオ・テレビゲームの普及」は位置づけが難しい)。

家族について検討した場で述べたように、戦後の日本で「核家族化」が進行したとの事実は確認しがたいし、少なくとも80年代末頃までの既婚夫婦がつくる子供の数は減っていない以上、兄弟姉妹を持つ人の割合が減っているとも考えられない。「モラルの低下」や「人間関係を作る力の低下」などは具体的な検証が困難であるし、「ビデオ・テレビゲームの普及」が人間関係の形成において具体的にどのような影響を及ぼしたのかを検証することも難しいだろう。「教育環境の悪化」「職場環境の悪化」は具体的に何が念頭に置かれているのか不明である。

しかし、実態はどうあれ、ここで重要なのは、人々がこのように感じているという事実そのものである。



地域共同体の変容の実態と背景――地域の流動化


内閣府世論調査によれば、少なくとも最近30年程の間に、近所付き合いの程度は小さくなっている(内閣府〔2007〕、第2-1-19図)。これは、巷間に流布している「地域の空洞化」言説を支持するデータであるように思える。ただし、1970年代半ば以降には、単身者世帯が2倍以上に増加している(内閣府〔2007〕、第2-1-40図)。一般に、単身者世帯では近所付き合いをすることが少ないことを思えば(内閣府〔2007〕、第2-1-38図)、親しい近所付き合いをする人の割合が低下しているのは自然なことであるとも言える。単身者以外の世帯間での近隣関係にはあまり変化が見られないかもしれず、近隣関係一般が希薄化していると結論付けるのはやや早計であろう。


また、人々が「地域の空洞化」についての実感を持っているかどうかも微妙なところがある。やはり内閣府世論調査によれば、10年前と比べて地域のつながりが「(やや)弱くなっている」と感じる人は約3割とのことだが、「変わっていない」か「(やや)強くなっている」と感じる人は5割を超えており、こちらの方が多数派である(内閣府〔2007〕、第2-1-25図)。あるいは、10年というスパンではより長期にわたる変化が上手く捉えられないということなのだろうか(既に「空洞化」が済んでしまった後の10年?)。他方、住んでいる地域の土地柄を聞く質問に対しては、1988年と2007年の比較で、「庶民的で、うちとけやすい感じ」「なにかと相談しあい、助け合う感じ」などの回答が割合を減らし、「お互い無関心で、よそよそしい感じ」「わからない・無回答」といった回答の割合が増加している(内閣府〔2007〕、第2-1-27図)。こちらのデータは、「空洞化」説を補強してくれそうである。


ここまで、敢えて「空洞化」説への慎重な態度を示してきたが、濃密な近所付き合いを望まない人が増えていることは確かである。NHK放送文化研究所が実施している人間関係についての世論調査を近所付き合いについて見ると、最近30年間では「部分的」付き合い(「あまり堅苦しくなく話し合えるようなつきあい」)を望む人が最も多く、概ね50%台前半で推移している(NHK放送文化研究所編〔2004〕、194-195頁)。「全面的」付き合い(「何かにつけ相談したり、たすけ合えるようなつきあい」)を望む人は1973年には35%を占めていたものの、2003年までの間に20%へと低下して、「形式的」付き合い(「会ったときに、あいさつする程度のつきあい」)を望む人より少なくなっている(内閣府〔2007〕、第2-1-28図、も参照)。生年別にみると、戦前生まれの世代では、後の世代に比べて「全面的」付き合いを望む人の割合と「部分的」付き合いを望む人の割合の差が小さくなっているため、近所付き合いについての意識が戦後に変容したことがうかがえる(NHK放送文化研究所〔2004〕、196-197頁)。


しかし、地域のつながりは、昔から希薄であったわけではない。むしろ極めて強い地域のつながりの下、人々は、生産、教育、福祉など生活にかかわる多くのことを地域住民と共同で行っていた。ところが、このような強いつながりは、経済・社会環境が変化するとともに希薄化していった。1952年に公表された「地方自治世論調査」には、「近所づきあいをしないと毎日の暮らしで早速困ると言うものが約27%であり、大多数(70%)のものは日常生活に困らないと言っている」、「約半数のものは同地域に住む隣人間にあっても余り深くつきあわない方がよいとの態度をとっており、深く交際することを望んでいるものは38%である」との調査結果の概要が記されている。これは今から50年以上前においても、農業時代の「村」に代表されるような、地域のつながりなくしては生活が成り立たないといった状況からは、既に大きく変化していたことを示している。また69年に公表された「コミュニティ―生活の場における人間性の回復―」(国民生活審議会調査部会編)では、近隣の人々との結び付きが次第に希薄化している点が指摘されたとともに、地域のつながりの希薄化により生ずる問題について懸念が表明された。つまり60年代後半においては、地域のつながりが一定程度希薄化していたことがうかがえる。


[内閣府〔2007〕、第1章第1節2]


全産業の内で第三次産業が占める割合は年々増加しており、2006年現在では、GDPに占める割合は68%に上っている(第二次産業は30%)。就業者数の割合では、2007年現在で69%を占めており、1990年から数えても約10%増加している(同じ期間内に第二次産業は33.6%から26.8%まで減少)。

長期的推移は以下の表を参照(「労働力調査 長期時系列データ 産業別就業者数」@総務省統計局)。

総就業者数 第一次産業 第二次産業 第三次産業
1953 3913 1559/35.8 952/24.3 1402/35.8
1963 4595 1194/26 1431/31.1 1968/42.8
1973 5259 705/13.4 1923/36.6 2631/50
1983 5733 531/5.3 1957/34.1 3244/56.6
1993 6450 383/5.9 2176/33.7 3891/60.3
1998 6514 343/5.3 2050/31.5 4121/63.3
2003 6316 293/4.6 1787/26.3 4236/67.1

(万人/%)

  • 職住の分離


サラリーマン化の進行(内閣府〔2007〕、第1-2-35図

国勢調査に基づいて従業地・通学地ごとの人口分布を見てみると、1990-2005年の期間に限っても、より遠隔地で就業ないし通学している人が増えていることが分かる*3。今や就労または通学している人の3割は、居住地とは異なる自治体に通っている。

従業または通学している人の総数 自宅で従業 自宅外の自市町村で従業・通学 県内の他市町村で従業・通学 他県で従業・通学
1990 85,035,058 11,777,523/13.9 50,839,573/59.8 16,800,957/15.8 5,817,005/6.8
1995 85,010,070 9,560,142/11.2 50,566,002/55.5 18,237,182/21.5 6,246,744/7.3
2000 81,531,609 8,784,788/11.9 48,308,687/55.3 18,476,614/22.7 5,961,520/7.3
2005 78,232,051 7,722,432/9.9 47,477,487/60.7 17,156,104/21.9 5,876,028/7.5

(人/%)

  • 外国人観光客の増加


日本に入国する外国人は、1955年には約5万5千人だったが、2006年には800万人を超えている(法務省入国管理局〔2007〕、2-3頁)。

  • 在住外国人の増加


外国人登録者数は、1955年には約64万人で国内人口の0.71%を占めるにすぎなかったが、2006年には約208万人にまで増加し、国内人口に占める割合は1.63%へと上昇している(法務省入国管理局〔2007〕、20頁)。外国人登録者数が総人口に占める割合は、80年代までは横ばいだったが、90年代に入ってからは一貫した伸びを見せており、地域における定住外国人の存在感は確実に増しているものと思われる。



会社共同体と職業的連帯の変容――職場の流動化


先に触れたNHK放送文化研究所の調査では、職場での人間関係についても聞いている(NHK放送文化研究所編〔2004〕、194-196頁)。1973年には、職場での「全面的」付き合い(「何かにつけ相談したり、たすけ合えるようなつきあい」)を望む人は59%、「部分的」付き合い(「仕事が終わってからも、話し合ったり遊んだりするつきあい」)を望む人は26%、「形式的」付き合い(「仕事に直接関係する範囲のつきあい」)を望む人は11%だったが、30年の間に前者の割合は減少、後二者の割合は増加している。2003年調査では、「全面的」と「部分的」が38%で並び、「形式的」が22%で続く(内閣府〔2007〕、第3-1-8図)。生年別の回答割合では、48年を節目として、それ以前に生まれた世代では「全面的」付き合いを望む人が多数派であり、それ以降に生まれた世代では、若年になればなるほど「部分的」付き合いを望む人が多くなっている(NHK放送文化研究所編〔2004〕、199-200頁)。


  • 日本的雇用慣行の衰退


日本の労働組合組織率は先進国の中では元々相対的に低い水準にあったが、1970年代までは30%台に落ち着いていた(「労働組合数、労働組合員数及び推定組織率の推移」@たむ・たむページ)。70年代末から低下傾向が明らかになり、以降は一貫して漸減を続け、2007年現在では18.1%にまで落ち込んでいる(厚生労働省〔2007〕、1)。もっとも、組合組織率の低下傾向は先進国に共通して観察される現象である(「労働組合組織率の国際比較」@社会実情データ図録)。

労働組合の組織率の低下の要因としては、産業構造や就業構造の変化が挙げられることが多い(久米〔2005〕、26-27頁)。同じような労働条件で長時間協働して仕事を行う工場労働者は、比較的組織化が容易である。そのため、第二次産業が主流であった時代には、労働組合組織を維持・成長させやすい。ところが、第三次産業が占める地位が上昇したり、非正規労働者が増加したりすると、労働条件や労働者の均質性が低下するため、組合として団結するのは難しくなる。

NHK放送文化研究所世論調査では、新しくできた会社に雇われてしばらく経った後に、労働条件についての強い不満が起きた場合、自分ならどうするかを尋ねている(NHK放送文化研究所編〔2004〕、98-99頁)。選択肢は、「静観」(「できたばかりの会社で、労働条件はしだいによくなっていくと思うから、しばらく事態を見守る」)、「依頼」(「上役に頼んで、みんなの労働条件がよくなるように取りはからってもらう」)、「活動」(「みんなで労働組合をつくり、労働条件がよくなるように活動する」)の三つである。一位は一貫して「静観」であるものの、73年時点では「活動」が32%で二位に付けていた。それが88年には「依頼」に逆転され、2003年には18%にまで落ち込んでいる。他方、「静観」は50%に届いた。



このデータに関しては、石油危機後の低成長による経営安定維持を優先する意識の広まりを指摘する立場がある一方(NHK放送文化研究所編〔2004〕、99頁)、組合に加入していない労働者が持っている組合の必要性認識は低下していないことを採り上げて、労働者の間にフリーライダー志向の高まりを見出す立場もある(久米〔2005〕、28-29頁)。だが、そのようなフリーライダー志向の高まりがあるとするなら、なぜそれが生じたのかまでを説明しなければなるまい。それゆえ、直ちに支持するに足る説であるとは言えない。

ここでは差し当たり、状況論的な分析と構造論的な分析を総合する立場を選択し、組合への期待や信頼そのものはさほど低下していないものの、経営環境への配慮や就業構造の変化に由来する組織化の困難によって、組合の組織や活動が困難に行き当たっているのだと理解しておこう。



市民の結社と運動の行方

  • ボランティアに参加する人やボランティア団体は増加している(経済企画庁〔2000〕、Ⅰ-1-5図)。注目度も高まっている(同、Ⅰ-1-2図)。

この法に基づき認証された非営利法人は年々増加の一途を辿り、2007年現在で3万を超えている(国民生活審議会総合企画部会〔2007〕、3頁)。

  • NPOやボランティアに参加している人は1割、今後参加したいと思っている人は5割(内閣府〔2007〕、第2-1-32図
  • NPOに期待する役割の1位は、「人と人との新しいつながりを作る」(内閣府〔2005〕、図3


国際NGOの総数は、1953年から1993年までの間に6倍以上に増加している(遠藤〔2005〕、202頁)。




*1:調査データは、内閣府〔2004〕のもの。

*2:ここで言う「第一次産業」は「農林水産業」(「農林業」+「漁業」)、「第二次産業」は「鉱業」「建設業」「製造業」、「第三次産業」はそれ以外の産業を意味する。

*3:以下の表は、「常住地又は従業地・通学地による人口(夜間人口・昼間人口)−全国,都道府県,市町村(平成2年〜17年)」@政府統計の総合窓口、に依拠した。従業または通学している人の総数は、全人口から「従業も通学もしていない」人口と不詳分を引いて算出した。自宅外の自市町村で従業・通学の数は、「自宅外の自市区町村で従業・通学」と「自市内他区で従業・通学」の数を合計している。