保守思想入門


講演記録の書籍化であり、語り言葉による平易な形で佐伯思想が概観できる内容になっています。論旨にはほとんど賛成できませんが、現今、保守思想や保守主義にはろくな入門書が無いので、学生に最初に薦められる本として便利だろうと思います。既存のものでは消去法で西部邁『保守思想のための39章』(筑摩書房ちくま新書)、2002年)が思い浮かびますが、あれはやはりこなれないので。

私はいわゆる保守系の論客が書いたものは全然手にしてきませんでしたが、思想面で読むに耐え得る一貫した立場を持つ数少ない論者として、著者の書いた本は幾つか読んでいます。個人的には、コミュニタリアンが主張する実質的価値や共通善なるものの意味が、今回ようやく(うっすらと)理解できた気がしました――いずれにせよそれはポストモダン下において絶望的な思想だと思いますが。

この本の後には、同じ著者のものから、思想への興味が大きい方は『自由とは何か』(講談社講談社現代新書)、2004年)へ、社会認識への関心が高い方は『倫理としてのナショナリズム』(NTT出版、2005年)に進まれるとよいのではないでしょうか。特に前者は、保守主義ないしコミュニタリアニズムからの自由解釈として参考になるところが多く、もっと読まれてもいい気がします。




自由と民主主義をもうやめる (幻冬舎新書)

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自由とは何か (講談社現代新書)

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