政治

賢人政治批判のパラドクス――八代尚宏『新自由主義の復権』

八代尚宏『新自由主義の復権――日本経済はなぜ停滞しているのか』(中公新書、2011年)は、経済財政諮問会議などで活躍した著名な経済学者による政治的パンフレットである。その主たる眼目は、「官から民へ」「民間にできることは民間に」をスローガンとした…

震災という不正義と、2つのメタ・ガバナンス

まもなく私たちは、3月11日という日付を再び迎える。去年のその日は、大きな地震と津波があった。人が沢山死んだ。たくさん、たくさん、死んだ。同じ日に原子炉が壊れ、放射性物質が漏れた。私たちの生活は見えない怖れに汚染され、日常性はひしゃげた。 自…

原発と直接投票――ステークホルダーの観点から

私は政治理論を専攻していて、とりわけ「ステークホルダー」(利害関係者)という概念をテーマにした研究を行っています。企業の意思決定に対するステークホルダーが株主だけでない従業員や消費者、地域社会、環境などを含むように、政治も、法的な権限に根…

民主党の組織と政策

民主党の組織と政策作者: 上神貴佳/堤英敬出版社/メーカー: 東洋経済新報社発売日: 2011/09/02メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 66回この商品を含むブログ (18件) を見る 今夏、書籍としてはほぼ初と言っていい、民主党についての実証的研究が出版され…

哲学的想像力の滞留――東浩紀『一般意志2.0』

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル作者: 東浩紀出版社/メーカー: 講談社発売日: 2011/11/22メディア: 新書購入: 14人 クリック: 581回この商品を含むブログ (164件) を見る 東浩紀『一般意志2.0−−ルソー、フロイト、グーグル』(講談社、2011年)を強…

「コンセンサス」はいつ得られるのか――3つの条件

政治・政策に関する言説に触れていると、「この問題については国民的な議論が必要である」とか「まだコンセンサスが得られているとは言えない」などといった言い回しを、よく耳にします。ところが、どうなれば国民的な議論が行われたことになり、どこまで行…

差別はなぜ許されないか――区別との区別

「風評被害」の虚飾の下に、差別が拡がっています。差別は昨日今日、生まれたのではありません。レイシズムもセクシズムも、宗教差別も出生地差別も、疾病・障害や能力その他の特徴による差別も、過去から現在まで一貫して存在しているものです。起きたこと…

誰が都知事を選ぶべきか

進学について激励を頂いた方々、改めてありがとうございました。さて、ごく個人的なことをいつまでも最新記事に掲げておくのはどうも気恥ずかしいので、最近考えたことを簡単に。 以前「私たちはなぜアメリカ大統領を選べないのか」といった論点について述べ…

来るべきステークホルダーへの応答――政治の配分的側面と構成的側面

過去は到来する。未来は構成される。私たちが構成する未来が、誰かにとっての過去として、決定された形で到来するのである。原子力発電所と、それがもたらすコストとリスクについての思考は、私たちの視野に、ヒトの一生を超えるタイムスパンを要求する。も…

政治的なものと公共的なもの――権力と期待

政治的であることと非政治的であること われわれの出発点を何処に置こう。「個人的なことは政治的である!」――よろしい。では、個人的なことの全てが政治的であるか? あるいは然り、あるいは否。「全てがそう、とは言わないまでも、全てが政治的にはなりう…

熟議的な熟議と、そうではないもの

日々不勉強を沁み込ませている身では、専門的なことについて何かを言うということははばかられるのですが、しかしそれでも感じたり考えたりしていることを折々に吐き出しておかないと、いつまで経っても何も言えないことになるので、最近細切れに書き付けて…

最近出た本の中から

常日頃、政治学系の本がブログ界隈で紹介される機会は相対的に少ないと感じているので、優れた新刊などは出来るだけ採り上げたいと思っています。簡単な書評や紹介を書ければいいと思っているのですが、ブログに揚げるとなると何だか多少なりともエネルギー…

ステークホルダーの両義性――あるいは政治主体としてのステークホルダーについて

数ヶ月前に私は、「ステークホルダー・デモクラシーの可能性」なる文章を公表しました。十分だったかどうかは分かりませんが、そこでは、経営学でのstakeholder theoryの文脈を押さえつつ、stakeとstakeholderの語源・語義を簡単に整理して、「公共化された…

代表についてのtweet

代表についての自分のtweetをまとめておく。分人民主主義や民主主義/一般意志2.0の議論とも関連するので、そちら関係のtweetも後半に載せておくが、時期的には前後する形になる。

クジ引きは民主的か?

クジ引きは民主的だと言われる。デモクラシーにとっての理想は、人民の中からクジで選ばれた人々が公職を担当することだと考えている人は多い。古代ギリシアの実例に範を採りながら、クジ引きこそ政治的平等と人民主権を究極的に実現する方法だと見なすので…

「暴力装置」イコール問題発言の構図

仙谷氏「自衛隊は暴力装置」 抗議受け謝罪、首相も陳謝 http://www.47news.jp/CN/201011/CN2010111801000326.html ツイッターでは政治家が政治学/社会学における初歩の初歩も知らないのか、として批判者を問題視する反応が(私のタイムラインでは)多かった…

アナーキーの3つの意味

「アナーキー」の概念には、その語義・用法からして、おおよそ3つの意味が見出せる。第一の意味は、(1)無秩序である。これは秩序が失われた状態として否定的に言及される一般的用法のほか、特にヒエラルキーと呼ばれるような階統的な秩序の反対概念として…

熟議批判の嘘と本当

池田信夫氏のブログは普段読まないのですが、さる人に記事を紹介されたので以下を読みました。せっかくなので、簡単にコメントをしておきます。 熟議という「便利な嘘」 - 池田信夫blog http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51491223.html 話題になって…

掲載告知:ステークホルダー・デモクラシーの可能性

お知らせです。 『政策空間』さんに、「ステークホルダー・デモクラシーの可能性」と題する拙論が掲載されました。 日本語の「利害関係者」には尽くされない“stakeholder”ないし“stake”の意味を具体例と語源に基づきつつ説明し、近年それが重視されるようにな…

掲載告知:「確率・亡霊・唯一者」

昨日までの4日間に分割掲載した論文「確率・亡霊・唯一者」を、pdfファイルでHPに公開しました。以下のページから閲覧・ダウンロードできます。http://sites.google.com/site/politicaltheoryofegoism/works ブログでは省略した注が読めますので、是非ご利用…

確率・亡霊・唯一者――政治学的想像力のために(4・完)

目次 1.確率と亡霊 2.可能性と単独性 3.唯一者と絶対性 4.政治と未来(本記事)

確率・亡霊・唯一者――政治学的想像力のために(3)

目次 1.確率と亡霊 2.可能性と単独性 3.唯一者と絶対性(本記事) 4.政治と未来

確率・亡霊・唯一者――政治学的想像力のために(2)

目次 1.確率と亡霊 2.可能性と単独性(本記事) 3.唯一者と絶対性 4.政治と未来

確率・亡霊・唯一者――政治学的想像力のために(1)

目次 1.確率と亡霊(本記事) 2.可能性と単独性 3.唯一者と絶対性 4.政治と未来

掲載予告:「確率・亡霊・唯一者」

お知らせです。 明日、9月14日から17日までの4日間、私の未公開論文を分割して、本ブログに掲載します。全4章の論文を毎日1章ずつ載せ、全章掲載後の18日に論文本体のファイルを以下のページに公開する予定です。http://sites.google.com/site/politicaltheo…

デモクラシーは「民主主義」なのか

日本では“democracy”と言えば「民主主義」と訳されることが一般的です。場合によって「民主政」「民主制」などとも訳されることがあり、私などはこの訳し分けに積極的な意義を見出して区別し、民主主義/民主政の両面を包含したい場合には「デモクラシー」の…

社会運動は日本を変えてこなかったか?

多少時宜を外した感が無きにしも非ずですが、西田亮介氏がシノドスブログに寄稿している「「あたらしい『新しい公共』円卓会議」は、市民運動を越えられるか?」(2010年7月5日)と題する記事について、少しコメントしたいと思います。予め言っておきますと…

祈りとしての革命

革命とは何であるか。それは、私たちを日常的に取り囲んでいる「市民的現実」の破壊であり、外部からの侵略であると、千坂恭二は言う(千坂[2010])。是々非々の立場取りや条件付き賛否などは、革命とは相容れない。これら議論≒説得可能性なるものは、相手と…

ハンナ・アレントの「一般意志」論

ルソーの「一般意志」論について考える上で、以下のような読解を引いて多くの人の目に触れやすくしておくことが、あるいは多少の意味を持つこともあるかもしれない。いささか長くなるが、ご容赦を願いたい。 このような多くの頭をもつ一者をつくりあげるため…

政治学者による現状分析と「未来予想図」

参院選投票日が直前に迫りましたので、ツイッターを中心とした政治学者の方々の議論を紹介する形で、軽く更新しておきます。 まず、先月初め時点での、菅原琢さんの分析を中心とする議論。 「政治学者、「政局」を語る1(2010.6.4-5)」 菅原さんは、この後…