ドレスデン法廷でのムスリム女性刺殺事件


以下に掲載されている、内藤正典オバマ政権はイスラームとの衝突を緩和できるか――穏健派と過激派という二分法を超えたとき、対テロ戦争はどこへ向かうのか―― 」を大変興味深く読む。


世界 2009年 09月号 [雑誌]

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以下は出版社からの紹介

 ブッシュ前政権は、イスラームとの関係を見事なまでに誤認と偏見で固めた。オバマ政権は、これを180度転換させた。2009年4月にイスタンブールで、6月にカイロでオバマが行った演説は、ムスリム反米感情を緩和させただけでなく、意外なまでに親米感情を醸成させた。問題は、アメリカ政府に中東・イスラーム世界との劇的な関係改善を実現しうる可能性があるか否かである。
 演説にこめられたオバマのメッセージを読み解き、オバマ政権の対イスラーム政策の今後の展開と数々の課題を分析する。


啓発的・刺激的な内容もさることながら、本題とは別のところでいささかショッキングな事実を知る。日本ではほとんどAFPぐらいしか報道しなかったようで、恥ずかしながら私も全く聞いたことが無かったのだが、先月1日、ドイツの法廷内で原告のムスリム女性が被告のロシア系ドイツ人の男性にめった刺しにされて死亡する事件があったらしい。

独裁判所内でのエジプト女性殺人事件、テヘランで抗議行動
2009年07月12日 19:02 発信地:テヘラン/イラン


【7月12日 AFP】ドイツ・ドレスデン(Dresden)で1日、訴えられていたロシア生まれのドイツ人の男(28)が、原告のエジプト人女性を、裁判所内で18回にわたって刺して殺害した事件をめぐり、イランの首都テヘラン(Tehran)のドイツ大使館前で10日、イスラム教徒150人の学生が抗議行動を展開し、大使館に生卵を投げつけるなどした。AFP特派員が取材した。

 ドレスデンの事件でエジプト人女性を刺殺したのは、ロシア生まれのドイツ人で無職のアレックス・W(Alex W)容疑者(28)。名字はイニシャルでしか公表されていない。同市在住のエジプト人女性マルワ・シェルビニ(Marwa al-Sherbini)さん(33)に対し、イスラム教徒の女性がかぶるスカーフを指して「テロリスト」などとののしったことでシェルビニさんが訴え、男には罰金が命じられたが、これを不服として控訴。シェルビニさん側の陳述の日に、出廷して犯行に及び、現在は殺人罪で起訴されている。

 妊娠もしていたシェルビニさんは、夫と3歳の息子の目の前でめった刺しにされた。また、夫で遺伝学者のエルウィ・アリ・オカズ(Elwi Ali Okaz)さんも男に刺されたうえに、駆けつけた警察官に犯人と間違われて発砲され被弾し、重傷で入院している。 

 ドイツ内外のイスラム教徒らは事件を「スカーフ殺人事件」と呼び激しく非難している。エジプトのアレクサンドリア(Alexandria)で5日に行われたシェルビニさんの葬儀には数千人の弔問客が集まった。

 1日のテヘランでの抗議では、イラン人学生らが「ドイツに死を、ヨーロッパに死を」などとスローガンを叫んだり、アンゲラ・メルケルAngela Merkel)独首相をののしり、ドイツ大使館の側壁に「アンゲラはナチスだ」などと落書きする者もいた。

 イラン政府は10日、テヘラン駐在のHerbert Honsowitz独大使を呼んでシェルビニさん殺人事件に抗議するとともに、ドイツ政府に対し少数派民族の権利擁護の強化に努めるよう求めた。(c)AFP


検索して見つかる限りでは、この他に13日共同配信の記事が各紙に掲載されたようだ。

ドイツでイスラム女性刺殺 「差別」とエジプトで反発


 【カイロ13日共同】ドイツ東部ドレスデンでスカーフをかぶったイスラム教徒のエジプト人女性が刺殺される事件があり、エジプト国内外で「イスラム差別が背景にある」と反発を呼んでいる。

 ドイツのメルケル首相は主要国(G8)首脳会議(ラクイラ・サミット)で、エジプトのムバラク大統領に弔意を伝達。反欧米姿勢を強めるイランのアハマディネジャド大統領も「国連安全保障理事会による糾弾を求める」と非難するなど政治問題化している。

 薬剤師マルワ・シェルビニさん(31)はスカーフを理由に「テロリスト」などと侮辱されたとして、隣人でロシア生まれのドイツ人の男(28)を提訴。その審理が行われていた法廷で1日、この男に突然刺殺された。妊娠3カ月だった。

 シェルビニさんが18回も刺されたことや、守ろうとした夫が守衛に誤って撃たれ重傷を負ったこともエジプト国内での怒りを増幅させた。シェルビニさんの出身地、北部アレクサンドリアでは数千人が抗議デモを実施。地元紙は「スカーフの殉教者」と報じた。


内藤論文にも書かれているが、日本でろくに報道されないのも無理のないところがあって、そもそも事件のあったドイツをはじめとして、ヨーロッパ諸国のメディアが極めて消極的にしか事件を採り上げていないらしい。扱われても主な関心は法廷のセキュリティの問題に注がれていたり。内藤は、ムスリム関係の過去の事件と比較しつつ、この奇異な状況の意味を問うている。


以下、参考にブログ記事を貼っておく。

ドレスデンの法廷でエジプト人妊婦原告が被告のドイツ人からめった刺しにされる。夫もめった刺しにされた上警備の警察官に犯人扱いされ撃たれる【ドイツ】」@航海日誌と批判 Kuantanlog、2009年7月8日
ドレスデン法廷エジプト人妊婦めった刺し殺人事件に沈黙する欧米メディア」@航海日誌と批判 Kuantanlog、2009年7月14日
ドイツイスラムベール事件」@フランス語の砂漠:エグゾティスムは他人の日常、2009年7月14日