各党マニフェストから教育政策を比較する


8月30日の総選挙に臨む各党のマニフェストが出揃ったところで、子育て・教育・科学政策に絞って各党の公約を比較してみたい。資料は以下を用いる(いずれもYushisya.Blogから)。


なお、ここでは「比較」をするのみで、詳細な「検討」や明確な「評価」は行わない。現在の私には、それをするために十分な能力も時間的余裕も無いからである。ただし、素朴な感想や希望は述べることがあるので、注意されたい。また、あくまでも私の目に留まった箇所だけを採り上げることにして、網羅的に論じることはしない。繰り返すが、そんな暇は無い。リンクした資料には概ね網羅的なコピペが施されてあるので、関心の向きはそちらに直接当たって欲しい(ただし、労働関係分野は取り扱っていない他、スポーツ・文化政策も引き写していない場合がある)。


本題に入ろう。自民党マニフェストで第一に挙げられているのは待機児童ゼロへの取り組みであるが、その中身たる「保育サービスの集中整備や地方における定員割れ対策」には、何の具体的記述も無い。並んで挙げられている「ひとり親への支援拡大、児童手当の給付」についても同様である。具体性があるのは、低所得者支援策として「給付付き税額控除等」への言及が為されているところと、仕事との両立を支援するために「子育て期の短時間勤務の義務化」を図ると述べている箇所、それからマスメディアで目玉政策の扱いを受けている、2012年度の保育無償化ぐらいだろうか。

保育無償化については、連立を組む公明党マニフェストでも言及がある。加えて社民党も、保育料を無料化すると言っている。実は民主党も、5歳児の就学前教育は無償化を推進し、その上で「漸進的に無償化の対象を拡大する」と約束している。

待機児童の解消について言えば、関係行政統合を図る「子ども家庭省」の設置検討や、小中学校の空き教室利用などを掲げる民主党の方が、いくらか具体性がある。「保育ママ」など、多様なサービス形態の拡充を支援・促進していくことでは、民主と公明には共通点を見出せる。民主と公明の政策的距離の近さは周知の事実であるが、共通点と言えば、出産育児一時金の増額を主張していることもその一つである(民主は55万、公明は50万)。

民主党は、一人親家庭の自立支援策として、生活保護母子加算復活や、児童扶養手当の父子家庭への支給対象拡大、および5年以上受給者への減額制度の廃止などを訴えている。母子加算の復活と児童扶養手当の父子家庭への支給については、共産・社民も一致して主張している。これに対して、公明党母子加算の復活に否定的であり、「母子世帯全般の支援策」に触れるのみである(自民党はこれらについて一顧だにしていない)。

民主党の目玉政策である「子ども手当」であるが、これはマニフェストでは2004年の参院選の時に登場したもので、05年のマニフェストでは月額1万6000円とされていたのが、07年から今回と同じ2万6000円になった。類似の政策は他党も掲げており、月2〜3万の子育て手当を中学卒業まで支給するという「みんなの党」の公約は、ほとんど民主党のコピーである。公明党は、現行の児童手当を倍額にして中学卒業まで支給期間を拡大すると言っており、民主との主な違いは金額になる。共産・社民は、金額は公明と同じ月1万で(社民は第3子から2万という点まで同じ)、18歳まで支給すると言う。民主の「子ども手当」が導入されると扶養控除・配偶者控除が廃止されると言われているが、これに噛み付いているのが共産である。それは「サラリーマン増税」との「抱き合わせ」だからけしからん、と。

公明・共産・社民は、いずれも福祉を一貫して重視してきた政党だけあって、似通った主張が少なくない。既に述べたもの以外に、公明は乳幼児医療費の負担軽減を約束し、共産・社民は子どもの医療費の無料化を主張している(みんなの党も幼児医療費無償化を主張)。公明・社民は、ともに妊婦健診の無料化を訴えている。


子育て関係はこのぐらいだろうか。続く就学後の教育については、教育費および教育格差の問題がほとんどの党で採り上げられており、共通点も子育て政策以上に多い。自民・公明は、ともに低所得世帯の就学困難な高校生の授業料減免と、大学生向けの給付型奨学金の創設をうたう。高校の公立無償化・私立助成は「子ども手当」と並ぶ民主党の目玉政策であるが、同様の政策は共産・社民および新党日本も訴えている。民主は私立通学者に年12万〜24万円程度を補助するとしているが、共産は所得別に「年収500万円未満の世帯は全額助成、800万円未満の世帯は半額助成」を主張している。

奨学金については、自民・公明のみならず、共産・社民・改革クラブみんなの党が揃って給付型の創設を訴えている。他方で民主党は給付型については検討すると述べるだけで、「所得800万円以下の世帯の学生に対し、国公私立大学それぞれの授業料に見合う無利子奨学金の交付」を行い、さらに「所得400万円以下の世帯の学生については、生活費相当額についても奨学金の対象」とする、としている。

奨学金の改革に留まらず、高等教育の無償化に言及しているのは、民主・共産・国民新党である。民主党は07年のマニフェストには高等教育無償化を掲げていたが、今回は政策集の1項目に留めている。加えて民主と共産は、それぞれ「高等教育予算の水準見直し」や、大学の予算増額を訴える。これに対して自民党は、「国立大学運営費交付金や私学助成の充実等により、高等教育の財政基盤を強化する」としている。

教育財政に関して注目すべきなのは、教育分野への公的支出をOECD諸国並みに引き上げることを目指すと、自民・民主・公明・共産・社民の主要5党が一致して宣言している点である。GDP比と明記している民主・公明・社民に対して自民は曖昧だが、ここまで足並みが揃っているのならば、一致団結して財務省と闘って欲しいものだ。教育への不安を煽り立ててきた各メディアは、差異を採り上げるばかりでなく、この共通点をもっと大々的に採り上げるべきではないか。

共通点と言えば、少人数学級の実現も多くの党が公約している。まず自民党は、4年以内に少人数学級を実現すると言う(自民党が選挙公約で少人数学級に言及したのは初めてではなかろうか)。民主党はこれまで一貫して「30人以下の少人数学級」を訴えてきたが、今回は教員養成課程の改革(6年制へ)および増員に重点を置いているようで、人数規模の言明も無い。OECD諸国平均水準並みの「教員1人あたり生徒16.2人」の配置を目指すと言う。この他、公明・共産(「30人以下」)・みんな・日本(「30人規模」)の各党が、少人数学級の実現を訴えている。

他に学力関係では、自民党が全国学力テストの継続を明言し、幸福実現党が「全国学力調査」の実施と学校別成績の公表を主張しているのに対し、共産党は全国学力テストの中止を訴えている。また、自民・民主の両党が意外な程バッサリといじめ・不登校対策への言及を切り捨てているのに対し、大項目を立てている公明や「いじめ防止法」の制定を掲げる幸福の他、共産とみんなが当該の対策に触れている。


あとは、まだ触れていない各党マニフェストの独自色を拾っておく。自民党マニフェストにおける今回の最大の特色は、「日教組民主党」批判を大々的に行っている点である。これは、(安倍総裁下で行われた07年を含む)これまでのマニフェストには見られず、極めて異様な光景に思える。「教育の政治的中立」を唱える自民の一方で、共産は「教育の自由」を、社民は「自由な教育」を叫んでいる。旧来の政治対立軸の中へと自らひきこもる自民党は、これからどこへ行くのだろうか。

民主については多く採り上げたので、あまりない。マニフェストで他に目に付くのは、「学校理事会」による公立小中学校の運営や、教育委員会制度の見直しなどだろうか。各党のマニフェストを渉猟していて感じたのは、流石はじめにマニフェストを唱道した党だけあって、民主は過去のマニフェストの置き場所や形式も含め、よく整理されていて調べ易いということだった。おかげで過去の政策との連続性や変化も見つけ易い。神保哲生上杉隆が言っているように、情報を公開し、批判と評価に開かれることが、統治を担うにあたっての大前提だ。叩きやすいのは、相手が叩く材料をくれるから。叩かれるのが怖くて情報を渡さない奴が、責任とか口にして叩く一団に加わろうとするなんて、馬鹿じゃなかろうか。

公明のマニフェストには幾つも興味深い独自の項目が挙がっていて、例えば学生の就職活動の早期・長期化の是正や、ポスドク問題への対応の必要性についても触れている。共産党は、自民や民主が推進する「分権改革」の中で、教育分野を含む地方の財源が削減される危険に警鐘を鳴らしている。国民新党改革クラブは何か色々言っているが、私には上手く理解できない。幸福実現党はなかなかユニークで、注目されがちな宗教教育推進の他にも、学校選択制飛び級制度の導入、「国立大学の民営化」などを訴えている。