政権交代雑感


国内外を問わず、現実政治そのものについて私がオリジナルに語れる有意義なことというのは何も無いので、語らないことにしている。例えば鳩山首相の人事は、小沢幹事長から始まって以来、まずこれ以上は考えにくい配置だと思っていたのだが、そういうことも探せばちゃんと言われている。まぁ流石に亀井金融相には驚いたが*1、大した問題にはならないのではないか。亀井法相誕生に淡く期待しながらも、敢えて余計な火種を作るようなことはするまいなと思っていたのだが、就任したのはやはり死刑廃止派である千葉景子だったので面白い。外国人参政権の問題も重要だが、死刑についても議論を喚起するぐらいのことはして欲しい。他方、福島社民党首の処遇は概ね予想通りだった(それにしても、社民党が新人議員を得るのと引き換えに保坂展人を失ったのは残念だと思う)。

政治家の人事については、近年「論功行賞」人事が批判されたり、「お友達」人事が批判されたり、いちいちやかましい。しかし、挙げられた功に報いない上役ないしリーダーが部下やメンバーの忠誠や信頼を勝ち得られるわけがないし、他方で自分と距離がある人ばかりを集めて大きな仕事を成し遂げられるわけがない。論功行賞はあって然るべきだし、「お友達」を遠ざけるストイックさを称賛すべきいわれはない。要はバランスだ。新内閣は党内のベテランを程良く処遇しながら官邸は側近で固めており、理にかなっている*2

旧来の派閥均衡がグループ均衡に変わっただけだと言う人は、均衡に配慮することの何が悪いのかを説明する必要がある。民主党議員には政治主導=トップダウンと無邪気に言い募る人が多いので気がかりな面もあるのだが、党内・議会内(ひいては国家内)のコンセンサスを重視することは対立する価値軸の一方の極であって、権力均衡やそれに基づく合意形成を重視しない他方の極が無条件に優れているなどということは、決定されていないはずである。このあたり、近年では「党派を超えた」議論を重視しながら(いわゆる)「トップダウン」を望むという、これまたよく解らない「ねじれ」的な傾向があるので困ってしまうが、ひとまず自民党の「3分の2政治」を批判してきた民主党の議会運営には注目していきたい。


ところで、鳩山首相の「友愛」理念は理解不能だと盛んに言われている。「友愛」なる概念一般については哲学・思想史的に色々と深遠な議論があるはずだが、鳩山的友愛に限っては、さしあたり次のように理解したらいい気がする(思い付き)。つまり、それは菅直人が体現する「市民」的な価値観と、小沢一郎が体現する「経世会」的な価値観を結合・統合し、止揚するための枠組みであり、媒体なのだと。現在の民主党というのは、ある観点からすれば「オール社会主義者」と指弾されるように、要するに「経世会」的なもの(より広く言えば「55年体制」的なもの)のアップデートを指向している存在になっている。つまり、価値としては過去と同じかそれに近いものを、手段としてオープンかつクリーン(+リーズナブル)にやろうとしている。その点では、「戦後レジーム」からの「脱却」を訴える人とは明確に異なっていると思う*3

それでは自民党は、と見てみると、総裁選に3人が立った。いわゆる「ネオリベラリズム」的な価値および改革に親和的なナショナリストを「新保守主義」に分類する便宜的な仕方に基づくとすると、3人が代表しているのは、谷垣=旧保守、河野=新自由、西村=新保守、になるのかな。ざっくり言うと*4。で、河野が秋波を送っているように、新自由派はみんなの党と共通点が多い、と。やっぱり、自民党はとりあえず分裂すべきだろう。反共だけで結び付いていた戦後日本の保守主義を問い直すために必要な過程だと思う。だいたい公明党共産党がいる時点で二大政党にはならないんだから、米国や英国よりもドイツとか他に参考にするべき国があるはずなんだけどな。もう政権交代も実現したんだし、イメージ先行の「二大政党」なるタームに固執するのは終わりにして欲しい。


それにしても、岡田克也は偉いなぁ。特定の政党や政治家に肩入れすることはほとんど無いんだけれども、彼には以前から好感を持っている。個別の政策については様々問題があるとしても、少なくともリスペクトに値する日本の政治家を挙げろと言われて真っ先に思い浮かぶのは岡田かなぁ。


とまぁ、こんな感じに薄ーい話しかできないので、歴史的政変を記念して書いた今回限りで、現実政治そのものに触れることはもうしない。理論的な論点を絡めて書けるようになればいいんだが、そこまで行くにはまだまだ修行が必要なので。

*1:個人的に一番意外だと思ったのは、閣僚人事よりも松本剛明の議院運営委員長就任。政策畑の人だと思っていたのだが、小沢幹事長に乞われたということなのだろうか。

*2:これからは副大臣政務官の地位が向上していくことになるだろうから、論功行賞と実務能力の両立は、そこも込みで考える必要があるだろう。こちらも参照。

*3:これまでずっと、外交安保政策だけで各議員間の距離が測られる風潮が強かったけれど、それはいい加減慎むべきだ。

*4:でも、記者会見の内容とか見ると、西村=新保守とも言えないような気がしてきた。スタンスは麻生かな、と思うんだけど。