エゴイズムの思想的定位――シュティルナー像の再検討


現物が届いたので、告知します。

雑誌『情況』最新号(2010年3月号)に、マックス・シュティルナーの基本思想についての拙論文「エゴイズムの思想的定位――シュティルナー像の再検討」が掲載されています。


情況 2010年 03月号 [雑誌]

情況 2010年 03月号 [雑誌]


論文の内容は、『唯一者とその所有』とそれに対する批判に反論した「シュティルナーの批評家たち」においてシュティルナーが展開した「エゴイズム」の立場を、個人主義でもアナーキズムでもニヒリズムでもない独自の思想的立場として解釈・提示するものになっています。

矛盾だらけの書と評されることの多い『唯一者とその所有』ですが、私には初めて読んだ時からある一貫した思想が論じられているようにしか読めませんでした。確かに矛盾や混乱が全く無いわけではありませんが、それは本筋とは離れた些末な事がほとんどであると思います。

拙論文では、そうした観点から最も整合的に解釈したものとしてのシュティルナー的エゴイズムの像を結んでいます*1シュティルナーの思想の核心を理解するために必要十分な記述を心がけたので、シュティルナーとエゴイズムについての、これまでにないコンパクトなイントロダクションとなっているのではないかと思っております。


この論文は元々、シュティルナーについて言及している日本語の文献を全てさらって総批判してやろうという無謀なプロジェクトに基づき、少なくとも2007年初頭には原型が完成していたもので、その副産物が「マックス・シュティルナー研究日本語文献目録」でした。その後、公表の機会を得られずにいましたが、有り難いことに『ド・イデ』およびヘーゲル左派研究の論文が数多く掲載されてきた『情況』誌に掲載される運びとなり、大変嬉しく思っております。

そういった事情でシュティルナーの作品以外は日本語で読める文献ばかりを参照していますが、今のところの私の感触では、特に問題は無いはずです。2007年当時から論文の内容そのものにはほとんど変更を加えておりませんが、さすがに「総批判」は雑誌論文の分量では無理があるので、掲載論文では特に重要な誤解(+的確な理解も少し)だけを扱っています。目にした日本語文献ほぼ全てにリファーする「総批判」版は最新の文献も含めた改訂の上で、そのうちHPにアップすることにします。


能書きが長くなりましたが、何はともあれ現物を読んで頂くのが一番です。必要最低限の書き方のため、シュティルナーの名前も聞いたことが無いという人にはさすがに辛いかもしれませんので、そういう方はこちらの記事も併せて見て頂けるといいかな、と思います。最後の方にひっそりと載っていますので、何卒宜しくお願い致します。

*1:その意味で、これはシュティルナーを「政治理論」的に読み解いたものであり、決して思想史的な論文ではありません。シュティルナーのその他の作品やタテヨコの影響・規定関係についても考慮した思想史的なアプローチによる研究は、別途行う予定です。