stakeholder/ステークホルダー/ステイクホルダー研究あれこれ


2007/02/27(火) 18:02:45 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-324.html

更新をサボっているので、久し振りに研究に関係することを少し書いてみる。と言っても、あくまで手持ちのストックからリンクを貼ってみる程度。私の研究課題が何か忘れている人は「身元」を見るように(興味無いならいいよう)。もっとも、見ても何をやっているのかはよく分からないかもしれないが。


一昨年から昨年にかけての米国高官による対中国発言については「stakeholder@国際政治」で採り上げた。記事リンクは軒並み切れているが、米中首脳会談での演説記録は残っている。この件についてはこんな記事もあった。


このエントリで参照を求めたように、stakeholderについての日本語の研究としては水村典弘『現代企業とステークホルダー』(文眞堂、2004年)が必読の基本文献である。私も卒論で依拠した。同書中で整理されているstakeholderの語源などについては、こちらのレポート(pdf)の言及を読むのが手っ取り早いだろう。語源について水村が依拠しているのは主に、D.Julius,“Globalization and Stakeholder Conflict:A Corporate Perspective”,International Affairs,Vol.73,No.3,1977.である(但し、当のJuliusはとあるNPOのニューズレターに依拠しているのだが…)。


stakeholderとビジネス倫理学(企業倫理学/経営倫理学)について幾つもの著書を持つ宮坂純一のホームページはこちら多数の論文がpdfファイルで公開されている。どうやら別ページもあるようで、そちらでは幾つかの論文についてhtml版で読める。ざっと目を通せば、この分野の大まかな状況については把握できそうである。ビジネス倫理学関係の文献については、こちらも参考になるだろう。


stakeholder theoryの古典と言えば、R.Edward.Freeman,Strategic Management:A Stakeholder Approach,Oxford University Press1984.であるが、その出版前年の論文、R.Edward Freeman&David L.Reed,“Stockholders and Stakeholders:A New Perspective on Corporate Governance”,California Management Review,Vol.25 No.3,Spring 1983.はwebから読める(pdf)。


ビジネス関係以外の分野での研究に関心がある人は、例えば「ステイクホルダー理論による公私協働モデルの実証研究」(pdf)と題した科研費研究報告書を覗いてみたらどうか。stakeholderという言葉自体を使っているのは全体からすると極めて部分的だが。stakeholderという語は、現在様々な紛争解決、合意形成、リスクコミュニケーションの場面で使われているので、検索してみれば色々引っかかる。防災やら水資源やら公衆衛生やら原子力開発やら参加型開発やら。それこそ、私が卒論で幾つか扱ったように、stakeholderではなく利害関係者という言葉を使っているものを合わせれば膨大に過ぎる。


この報告書ではビクター・A.ペストフ『福祉社会と市民民主主義』(藤田暁男ほか訳、日本経済評論社、2000年)を参照しているが、ペストフが同書で肯定的に言及している英国のニューレーバーの政策の中には、stakeholderという語が度々現れる。この点については、小堀眞裕「第三の道か、サッチャリズムMark2か、それともステイクホルダー資本主義か?―ブレア政治をめぐる議論の整理のために―」『政策科学』第11号第3巻、2004年(pdf)が参考になる。同論文で言及されている1996年シンガポールでのブレアの演説はこれ(word)。ブレア政権が導入したstakeholdr pension制度については、藤森克彦「英国の年金改正の動向」『DIO』第171号、2003年を参照。


あとは、ブルース・アッカーマン達が提唱したstakeholder grantがある。これについては、齋藤拓「ベーシックインカムとベーシックキャピタル」『Core Ethics』第2号、2006年(pdf)で概要が掴めるだろう。


まぁ、大体こんなところ。英語で探せば他に幾らでもあるだろう。私も英語でのインターネット検索は隈なくやっているわけじゃないので。何か他に参考になりそうなものあったら教えていただけるとありがたい。


あと、一つ言っておきたいのは、stakeholderのカタカナ表記について。訳語では「利害関係者」が定着しているが、翻訳では原語のニュアンスを表現できないので、私はstakeholderとそのまま書くことにしている。最近は利害関係者と訳さずにカタカナで表記する場合が多くなり、経営学分野では完全にカタカナ表記が定着しているが、無視できない問題がある。それは、カタカナ表記を「ステークホルダー」にするか「ステイクホルダー」にするかの違いである。こう書くと非常に馬鹿らしく思えるだろうが、これが結構重要である。なぜかと言うと、インターネット検索をする際に検索者がどちらの語を用いるかで行き着くサイトが変わってくるからだ。


現在では「ステークホルダー」と表記する人が多く、検索ヒット数でもこちらの方が圧倒的に多い。だが、stakeholder研究の代表的論者の中には「ステイクホルダー」表記を用いてる者が少なくない。例えば先に挙げた宮坂純一がそうだし(『ステイクホルダー・マネジメント』(晃洋書房、2000年)『ステイクホルダー行動主義と企業社会』(晃洋書房、2005年))、『CSR 企業と社会を考える』(NTT出版、2006年)『CSR経営』(中央経済社、2004年)をはじめ多数の著書を持つ谷本寛治もそうだ。そのせいで、「ステイクホルダー」で検索すればトップに出て来る宮坂のサイトが、「ステークホルダー」で検索した時は一向にヒットしない(企業のサイトばっかり)。一方、水村典弘は「ステークホルダー」表記を用いており、水村の研究の基礎的性格を考えると、これに依拠して「ステークホルダー」表記を用いる人はますます増えるだろう。


こうした現状は、今後の研究発展と拡がりを考えるならば深刻に取り上げるに値する問題だと思われる。もちろん研究レベルでさしたる障害になるわけではないだろうが、何とか統一できないだろうか。谷本に関しては、「ステークホルダー」表記だと間の抜けた感じがして嫌だ、という趣旨の発言を講義中に聞いたことがあるので無理かもしれないが…。


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