stakeholder@国際政治


2006/04/26(水) 01:10:52 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-216.html

何だかややこしい話になっている。一応取り上げておきたい。


昨年来、米国が、中国に対して「責任あるステークホルダー」たることを求めている。


この言葉を最初に発したのはゼーリック国務副長官で、昨年9月。ライス国務長官ハドリー大統領補佐官グティエレス商務長官など米国閣僚級の人物が次々に同じ言葉を使用している。


何を思ったのか、米国のこうした動きを受けて、谷垣財務大臣麻生外務大臣安倍官房長官もこの言葉を使ったことがあるようだ。


そして、米中首脳会談に先立つブッシュ大統領の演説を受けて、大手新聞各社も社説でこの言葉を取り上げている(読売朝日毎日日経)。


stakeholderについては、新聞社によって「利害関係者」と訳す向きと、「利害共有者」と訳す向きがあるようだが、後者はあまり耳慣れない。おそらく、米国が使っている文脈を踏まえた意訳だろうが、適切には思えない。通例どおり利害関係者と訳す方が無難である。


stakeという語は実はそこそこ多義的で、杭や賭け金という意味もあれば、持分、所有権という意味もある。だから、訳語としては利害関係者を用いるとしても、それだけでは語の性格が上手く伝わらない。「責任ある利害関係者」たることを求めるってよく解らないと思う。なぜ利害関係者であることが責任を求める根拠となるのか。この文脈でのstakeholderの意味をより正確に取る為には、原文に当たらざるを得ないだろう(以下、太斜字体は引用者)。


The United States and China are two nations divided by a vast ocean -- yet connected through a global economy that has created opportunity for both our peoples. The United States welcomes the emergence of a China that is peaceful and prosperous, and that supports international institutions. As stakeholders in the international system, our two nations share many strategic interests. President Hu and I will discuss how to advance those interests, and how China and the United States can cooperate responsibly with other nations to address common challenges.


利害共有者と訳す人は、たぶんstakeholderの中にshareの部分も滑り込ませて合わせ技で訳語を作っているのだろう。ところで、ここで重要なのはshareでもなく、stakeholdersやstrategic interestsでもなく、案外international systemなのかもしれない。世界の利害関係者と言えば、誰だってどの国だってそうなのだから、殊更言うということは、international systemに多少限定的な意味があるということだろう。それが大した意味でないとしても。


それはさておき、元に戻ってstakeholderが何を意味するかはやはり重要である。一般に、stakeholderを構成するのは権益(interest)、持分(share)、請求権(claim)の3つであるとされる(水村典弘『現代企業とステークホルダー文眞堂、2004年)。つまり、まず、具体的な利害関心(に基づく権利)、そして、貢献や負担(に基づく権利)、最後に、要求・請求(の権利/に基づく権利)という3つの要素がstakeholderという語の意味には混在しているということ。ポイントは、stakeholder概念は要求の正当な根拠としての法的/道徳的権利概念と強く結びついているというところである(宮坂純一『ステイクホルダー・マネジメント』晃洋書房、2000年、も参照)。


日本語の利害関係者という語には、権利の意味合いも義務の意味合いも付着しているとは言い難い。ところが、stakeholderという語は語源からして所有権と深く結びついているし(水村前掲書参照)、権利あるところには義務あり原則で、「責任ある」云々となるわけだ。


もちろんこの文脈において最終的には、中国が国際システムの中で米国と戦略的利益/権益を共有/分有するstakeholderであると認められるということは、一方で中国が持つ利権がそれなりに正当なものとして承認されると同時に、他方でそれに伴う役割の負担を期待されるということである、といったような平々凡々な話に落ち着くに過ぎない。


ただ、なぜ米国がこのようなことを言う時にstakeholderなどという語が出てくるのか、普通に新聞を読んでいるとストンと飲み込めないのではないかと思う。特に、これを利害関係者と訳してしまうと、全く訳が解らない。新聞各社社説も、本当に語の意味を消化した上で書いているのか疑わしい文面になっている。


stakeholder概念が必然的に伴わせる権利義務概念ゆえに、厳密な話をするならばこれを利害関係者と訳すべきではないと私は思う。stakeholderと利害関係者は別物なのだ。という話を、私は卒論でもしている。


現代企業とステークホルダー

現代企業とステークホルダー