選挙制度の理念と設計


日本の選挙―何を変えれば政治が変わるのか (中公新書)

日本の選挙―何を変えれば政治が変わるのか (中公新書)


理念から制度まで説明した良い本だと思う(ただ、せっかくなので巻末に年表や各国比較など資料を添えて欲しい)のだが、理念を重視するからといって、多数代表制と比例代表制は二者択一であり、どちらかを単独で用いるべきだと主張する立場には違和感。そういう井上達夫的な割り切り方、嫌いだ。そして筆者の答えはやはり、と言うべきか、多数代表制(小選挙区制)への一本化である。スッキリしたいタイプの人は多数代表制(批判的民主主義モデル)に走り易いんだよな。でも理念を重視するからといって、スパッとどちらかに偏る必要は無い。私は利益の反映を重視する反映的民主主義モデルを採るけれども、小選挙区制と比例代表制を合わせて使うことに暫定的な支持を与えている。それは簡単に言うと、比例代表制のみでは上手くすくいあげられない利益を反映させる回路を確保するため。


それはさておき、この本を手に取るのは今更感があるな。何でもっと早く読んでおかなかったんだろう。stakeholder democracyに基づく制度設計を論じた修論補論は勉強不足の感が否めない。言い訳は、本論のために他の分野ばかり勉強していたら政治学に手が回らなくなったとか、熟義民主主義理論のフォロー(日本語のみだけど)で手一杯だったとか、かなぁ。候補者名簿を地方レベルで作成する制度にすれば、比例代表制のみで行ける可能性もあるのかもしれない。名簿の拘束性の問題もそうだけど、比例代表制には日本で一般に考えられている以上の可能性があるから、細かい設計次第ではもっと上手く利益を反映できるのだろう。政党支部の問題もその範囲でカバーできるかな。この辺り、もう少し詰めて考えておくべきだったかも。


以下、修論補論第3節より抜粋。この節を書く素材の一部になった過去のエントリも参考に挙げておく。

 反映的民主主義モデルは多様な利益を議席配分に反映しやすい比例代表制を志向するとされているが、比例代表制においては地域を問わず各政党からほぼ一方的に示された理念・政策への支持が争われるので、選挙区制と比べて各地域の多様な<利害>を吸収する機能が弱い。各地域から直に選出された議員でなければ、地方住民の<利害>を中央の議会に届けて政策集約の前提にさせるという役割を果たすことはできない。また、各地域で選挙戦を行う選挙区制の方が、政党支部の活動が活発になり、地域からのボトムアップ型政策形成の条件が整いやすい。それゆえ、比例代表制の特長は生かすべきであるとしても、完全比例代表制を採るよりも、選挙区制を並立ないし併用するのが望ましい532。また、比例代表制においては、有権者の選択の幅を広げるために、政党による名簿の拘束性は弱められなければならない。これは、単なる投票機械ではない熟議主体としての議員を選出する際には、所属政党の政策のみならず、候補者個人の資質も問われなければならない、という理由にもよる。


532 ただし、二院制において一方の議院を地方選出議員によって構成すると定めるならば、議決権において優越する他方の議院を完全比例代表制によって構成する選択肢を採ることも許容できるかもしれない。


選挙制度と政党
http://d.hatena.ne.jp/kihamu/20050909/1126270530


国民代表の独立性と拘束性
http://d.hatena.ne.jp/kihamu/20060720/1153322862


民主主義の練習問題(2)代表制と政党
http://d.hatena.ne.jp/kihamu/20061217/1166330095


代表制にまつわる若干の問題
http://d.hatena.ne.jp/kihamu/20070114/p1