司法

公訴時効廃止に何を見るべきか

先月末、重大な罪の公訴時効を廃止・延長する内容を含む改正刑事訴訟法および改正刑法が成立した。これに伴って全国犯罪被害者の会(あすの会)が発表したコメントによれば、今次の改正は「犯罪被害者の多年にわたる悲願」である。だが、『法律時報』5月号で…

精神障害者をどう裁くか

精神障害者をどう裁くか (光文社新書)作者: 岩波明出版社/メーカー: 光文社発売日: 2009/04/17メディア: 新書購入: 3人 クリック: 169回この商品を含むブログ (37件) を見る 良書である。既に多数の著作を持つ現役の精神科医が、とりわけ法に触れた精神障害…

かかわりあいの政治学6――時効はなぜあるのか

承前。 近年、刑事上の公訴時効制度について、その存在理由を疑問視する声が高まってきている。同制度については、犯罪被害者遺族の感情への配慮や捜査技術の発達などを背景として、2004年に公訴時効期間を延長する内容の法改正が行われたばかりである。それ…

刑法39条について

もう2年半も前のことになるようだが、過去に「刑法39条を擁護してみる」というエントリで、触法精神障害者に対する刑罰の減免を定めた刑法39条への批判論をやや詳細に検討したことがあった。そこでの私の結論は、保安処分的拘束の問題性を避けるためには、…

犯罪報道に実名など要らない

少年法第61条に関して、柔軟な運用を求める立場がある。要するに、少年犯罪でも場合によっては実名報道したってよいではないか、という主張である。 その論拠は大まかに言って3つ程あるだろうか。 (1)マスメディアには表現の自由が、国民には「知る権利」が…

続・「刑罰は国家による復讐の肩代わり」という神話

未だ当たっておくべき文献は残っているのだが、もとより論文を書くわけでもないし、それなりに文献を渉猟する中で既にある程度言えることも出て来たので、ひとまず書いておくことにしよう。なお、本エントリは以下の二つのエントリの続きとして書かれるので…

「刑罰は国家による復讐の肩代わり」という神話

さて、藤井誠二『殺された側の論理』(講談社、2007年)に収録されている座談会で、小宮信夫が「中世の時代は被害者に復讐する権利や決闘という方法」があったけれども近代国家になると被害者からは力が奪われて、「当初は被害者の代わりに国が復讐する役割…

被害者が負うもの・負わないもの

殺された側の論理 -犯罪被害者遺族が望む「罰」と「権利」作者: 藤井誠二出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/02/27メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 52回この商品を含むブログ (27件) を見る 藤井誠二が犯罪被害者に密着し過ぎていることは既に明らか…

死刑制度に反対する個人的な理由

光市の事件の判決があって、色んな人が死刑について書いている。私も死刑については幾らか書いてきたことがあるから、そういうものを読んでふーんと思ったり、その主張で大丈夫?と思ったりするんだけど、なーんか物足りない。ああ、そうか、お行儀が良すぎ…

死刑の現在性

論座 2008年 03月号 [雑誌]出版社/メーカー: 朝日新聞社出版局発売日: 2008/02/01メディア: 雑誌 クリック: 11回この商品を含むブログ (12件) を見る浜井浩一「死刑という「情緒」の前に データでみる日本社会の実情」芹沢一也「犯罪季評 ホラーハウス社会を…

死刑の非論理性、または「罪を憎んで人を憎まず」の(不)可能性について

森達也『死刑』朝日出版社、2008年。 死刑について、安易な二項対立や「べき」論に陥らない形で考えを巡らすために、恰好の良書。基本情報は押さえられているし、死刑囚、元死刑囚、被害者遺族、弁護士、裁判官、検事、刑務官、教誨師、政治家など、様々な立…

民主主義は裁判員制度を支持しない

2008年を迎えた。次に迎えるのは2009年である。2009年には、裁判員制度の開始が予定されている。裁判員制度は、国民の司法参加の名の下に導入されたものであり、いわば民主主義の理念をその基礎に据えていることになっている。だが実際には、裁判員制度が民…

近代的法主体は近代法を解体するのか

論座 2008年 01月号 [雑誌]出版社/メーカー: 朝日新聞社出版局発売日: 2007/12/01メディア: 雑誌 クリック: 2回この商品を含むブログ (5件) を見る 藤井誠二・芹沢一也「「殺された側の論理」と「犯罪不安社会」のゆくえ」『論座』2008年1月号(第152号) 重…

被害者及び死刑

宮崎哲弥・藤井誠二『少年をいかに罰するか』講談社:講談社+α文庫、2007年 過去の少年法をめぐる議論は、法務省や検察、弁護士、矯正施設など制度として少年犯罪に関わる立場の人間が、年齢引き下げなどで少年犯罪が減るかどうかという社会効果の観点から…

『世界』5月号雑評

2007/04/11(水) 17:00:51 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-332.html 『世界』5月号の幾つかの記事を読む。若干のコメントだけ。 丸谷才一と長谷部恭男の対談。戦争は政治体制(国体)を守るために起こる、という長谷部の議論はいつもながら面白いな、…

司法論ノート―利害関係者司法に向けて

この記事は「犯罪被害者保護に一考」「刑法についての試論」「修復的司法批判メモ」「刑法39条を擁護してみる」 「刑事裁判への被害者参加」「stakeholder justiceへ」を素材として加筆・修正を施したものです。

stakeholder justiceへ

2006/11/26(日) 17:01:23 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-294.html これまで、刑事司法についていくつかのエントリを書いてきた。日付順に並べると、以下である。 ①犯罪被害者保護に一考 ②刑法についての試論 ③修復的司法批判メモ ④刑法39条を擁護…

刑事裁判への被害者参加

2006/09/07(木) 13:46:59 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-277.html 忘れないように、一応メモ。 http://www.asahi.com/national/update/0906/TKY200609060437.html 杉浦法相は6日、犯罪被害者が刑事裁判の手続きの中で被告に直接質問したり、民事上…

刑法39条を擁護してみる

2006/08/08(火) 19:37:58 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-271.html 刑法第39条「①心神喪失者の行為は、罰しない。②心神耗弱者の行為は、その罪を減軽する。」 この条文は近年激しい批判にさらされているが、私にはどうも改正する必要が強く感じられ…

修復的司法批判メモ

2006/05/15(月) 22:40:35 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-224.html 修復的司法についてはずっと勉強したいと思っているが、未だに基本的なことすら勉強できていない。宮台真司が上野千鶴子による修復的司法の持ち上げを批判しているので、メモとして…

刑法についての試論

2005/12/11(日) 21:39:28 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-179.html 刑法について書いてみたいと思う。法学部でもなく、刑法の入門書すら読んだこともなく、刑法の学部講義ですら受講したこともない私には、全く以て無謀な試みと言うほかないが、物は…

犯罪被害者保護に一考

2005/04/12(火) 15:22:38 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-40.html 『中央公論』5月号をチラ見。 東野圭吾のインタビュー大体と呉智英を読んだだけ。 呉は近代国家原理が本質的に抱える問題、欠陥として被害者疎外を捉えていて、それはよく語られる…