思想

数学を勉強することの意味――「1+1」の思想

勉強することの意味を尋ねられたらどう答えようかな、などとはよく考えることがあるけれども、今日は特に数学に限定して考えてみようか。先日、数学を勉強するのは論理的思考を養うためだという旨の説明を横耳で聞く機会があって、それも一つの説明だろうな…

一般想像力批判

自分が小難しい類の本を読むようになってからの短い年月の中でも、最近とみに「想像力」なる言葉を使いたがる論者が増えた気がする。その意味するところには差異があっても、誰もが想像力の「減退」や「枯渇」(あるいは「古さ」)を憂い、想像力の「回復」…

確率の前と後

東浩紀が福嶋亮大にインタビューを受けた「オルタナティブの思想」『批評の精神分析 東浩紀コレクションD』(講談社BOX、2007年)から(初出2006年)。 じゃあおまえはなぜ一回性とか確率とか言うんだ、というと、これはちょっと難しい話で、僕もよく言語化…

「かかわりあいの政治学」の余白に

規範とは何か。決めごと/決まりごとである。なぜ決める/決まるのか。そうした方が好都合だからだ。誰にとって?――関係する(と考えられる)全ての主体にとってである。ある規範によって不利になる人もいるではないか――無論。しかし、その人にとっても、従…

幽霊と亡霊と

ソファの在る書店にて、3時間近くかけて以下の主に1、4、5章を読む。 マルクスの亡霊たち―負債状況=国家、喪の作業、新しいインターナショナル作者: ジャック・デリダ,増田一夫出版社/メーカー: 藤原書店発売日: 2007/09/25メディア: 単行本購入: 1人 クリッ…

よい・良い・善い

倫理とは何か―猫のアインジヒトの挑戦 (哲学教科書シリーズ)作者: 永井均出版社/メーカー: 産業図書発売日: 2003/02/01メディア: 単行本購入: 8人 クリック: 63回この商品を含むブログ (43件) を見る 諸事情により、再読。これはまぁ、制度的な意味での倫理…

倫理学には入門する価値があるか

動物からの倫理学入門作者: 伊勢田哲治出版社/メーカー: 名古屋大学出版会発売日: 2008/11/20メディア: 単行本購入: 16人 クリック: 209回この商品を含むブログ (54件) を見る 科学哲学の啓蒙書や論理的思考の指南書などで好評を得ている著者が*1、「なぜ動…

かかわりあいの政治学7――相続はなぜ認められるのか

承前。 相続はなぜ認められるのだろうか。ある人の連れ合いや子どもであることが、その人の死後に財産を無条件で譲り受ける権利を発生させるのは、なぜなのだろうか。相続については、相続税をもっと引き上げて――場合によっては100%にして――所得再分配に活…

かかわりあいの政治学6――時効はなぜあるのか

承前。 近年、刑事上の公訴時効制度について、その存在理由を疑問視する声が高まってきている。同制度については、犯罪被害者遺族の感情への配慮や捜査技術の発達などを背景として、2004年に公訴時効期間を延長する内容の法改正が行われたばかりである。それ…

正しいのはオレだ

例えば音楽で世界を変えようとすることは、愚かなことだろうか。「愛と平和」と叫んで暴力を止めようとすることは、馬鹿げているだろうか。本気で世界を変えようとしている人は馬鹿と呼ばれても別に何も思わないだろうが、実際のところ馬鹿でもなんでもない…

かかわりあいの政治学5――臓器は誰のものなのか

承前。 日本において、脳死者からの臓器提供は少なく、1997年10月から2009年3月まで81件(2)である。脳死提供者数は年間最大でも13名という状況である一方で、待機者は2009年3月31日現在、約12,400名(3)おり、国内での脳死者からの提供だけでは待機患者への移…

リスク社会における公共的決定

ブログという場の性質上、無粋と思いつつも言っておくと、前のエントリは、その前の「投票自由論」や「利害対立と民主主義モデル」の補足としての意味を込めています。そうするお暇がある方は、そのことを念頭に置いてそれぞれをお読みになって下さい。前の…

投票自由論――選挙など行っても行かなくてもいい

昔、「選挙へのエゴイズムの見解(試論)」というものを書いた。次の衆議院議員選挙がいつになるのか分からないが、選挙における有権者の行為/不行為に伴う責任について、改めてまとめた確定版を書いておきたい。 デモクラシーの精神に忠実であることを自負…

10代のための「民主主義とは何か」

こんにちは。いきなりで申し訳ありませんが、これから民主主義の意味について話すことにします。決して短くはありませんが、あなたが民主主義について知りたいのなら、役に立てるはずです。ただし、ここでは10代のみなさんに向けて話すことにしますから、ど…

左派ナショナリストへの疑問

塩川伸明『民族とネイション』を読了。広範囲に目配りの利いた良書だとは思いますが、全体的に広く浅くという印象で、ほとんど刺激は受けませんでした。著者が専門とする地域での掘り下げがさしてあるわけでもないので、一番有用なのは巻末のブックガイドか…

私たちの新たなる神

自分が欲しがっていたモノや、欲しがるであろうモノを、現に欲しいと言ったり思ったりする前に貰ったら、嬉しいはずだ。確かに、大して親しくもない人や見知らぬ他人からそれをされたら、嬉しさより気持ち悪さの方が先に立つだろう。自分が望むようなサービ…

利害関係とは何か

『思想地図』2号の座談会で、東浩紀が「一人一票」原理についての疑義を提起している。例えば、今や世界中がアメリカなのにアメリカ国民しか大統領を選ぶ権利が無いのはおかしくて、世界中の人々に選挙権が分散されていてもいい。同じように、これこれこうい…

正しい戦争など無い

いかなる暴力も正しくない。戦争は暴力の津波である。だから、この世に正しい戦争など存在しない。正しい戦争の存在を認めないと、暴力の範囲を最低限に抑制すべく規律正しく穏当に遂行された戦争と、無際限の冷酷かつ残虐な行為を伴った戦争とを区別するこ…

かかわりあいの政治学4――連接の長さと権利的優位

(承前) ある晴れた日のこと。私は真っ直ぐな歩道を歩いている。すると、100メートルほど前の横路から出てきた中年女性が、同じ歩道を、こちらに向かって歩いて来る。私も彼女も歩道の建物側を歩いており、徐々に近づいている。私はこの道に入ってからずっ…

保守思想入門

佐伯啓思『自由と民主主義をもうやめる』幻冬舎(幻冬舎新書)、2008年 講演記録の書籍化であり、語り言葉による平易な形で佐伯思想が概観できる内容になっています。論旨にはほとんど賛成できませんが、現今、保守思想や保守主義にはろくな入門書が無いので…

トクヴィル『アメリカのデモクラシー』

A.トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』(第一巻上下・第二巻上下、松本礼二訳、岩波書店(岩波文庫)、2005/2008年)は、アメリカ論として、デモクラシー論として、社会学作品として、政治学作品として、エッセイとして、眩いほどの名著です。10か月に…

倫理学の根本問題

確か修論を書き上げた後の数週間で一気に書いたのだけれど、その先がどこに向かうのか、今一つ見通しが悪い気がして寝かしておいた論文がありまして。「覚え書き」を書くことで社会学的な見通しは付けられたし、Egoist Manifestを書いて自身の暴力衝動の発露…

Egoist Manifest

時々思う。世界の全てに優しくしたい/ 私にとって必要なヒトやモノ以外は全て消え去ってしまえばいい。矛盾するような二つの思いが、同じ瞬間に顔を出す。脳内に畳み込まれている異なる想念が、交互に顔を出すのではない。穏やかな心向きによる世界の肯定と…

戦後アメリカの政治思想

仲正昌樹『集中講義!アメリカ現代思想――リベラリズムの冒険』日本放送出版協会(NHKブックス)、2008年 会田弘継『追跡・アメリカの思想家たち』新潮社(新潮選書)、2008年 米大統領選イヤーの今年はアメリカにまつわる書籍が多数刊行されたが、今回はその…

かかわりあいの政治学3――出来事が持つ意味

(承前) 個別の出来事が個別の出来事以上のものになることがある。直接には少数の人がかかわっただけの特異な出来事が、その特異性を維持したまま、その出来事が属する〈現在〉の全体を圧縮して代表することがある。日本の戦後史から例をとれば、連合赤軍事…

現代日本社会研究のための覚え書き――結論と展望

さて、ようやく一応の結論まで辿り着きました。本連載は、ひとまずこれで一区切りにします。「科学/生命」は書いていませんし、まだまだ不足なところを挙げたらきりがないですが、かろうじて大筋の見通しは付けられたと思います。元々1〜2年かけて地道にや…

かかわりあいの政治学2――個体の「本質」を疑う

(承前) 前回、何が「自分のこと」であるのかは、何が自分に「関係する」のかについての意識に依存していることを述べて、いわゆる「自己決定」原理が前提としている論理を抉り出して見せた*1。今回は、その関係の主体、意識する主体について、掘り下げて考…

森村進「ジャン・ナーヴソンの契約論的リバタリアニズム」

http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/15899 いつもの森村節で、最初の数頁だけでもなかなか面白いです。

暴力への意志を顕わせよ、さもなければ去れ

ゼロ年代の想像力作者: 宇野常寛出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2008/07/25メディア: ハードカバー購入: 41人 クリック: 1,089回この商品を含むブログ (263件) を見る 宇野常寛『ゼロ年代の想像力』(早川書房、2008年)。あまり期待していなかったのだが…

個と個人主義

松尾匡さんのページで言及を頂いたのに応えて、シュティルナーと個人主義についてのコメントを返させて頂いた。多くの人をおいてけぼりにしそうなテーマと内容なので、補足として拙文を載せておく。上は修論、下は前掲の未発表論文から。本当は早くこっち方…