文献

死刑の非論理性、または「罪を憎んで人を憎まず」の(不)可能性について

森達也『死刑』朝日出版社、2008年。 死刑について、安易な二項対立や「べき」論に陥らない形で考えを巡らすために、恰好の良書。基本情報は押さえられているし、死刑囚、元死刑囚、被害者遺族、弁護士、裁判官、検事、刑務官、教誨師、政治家など、様々な立…

近代的法主体は近代法を解体するのか

論座 2008年 01月号 [雑誌]出版社/メーカー: 朝日新聞社出版局発売日: 2007/12/01メディア: 雑誌 クリック: 2回この商品を含むブログ (5件) を見る 藤井誠二・芹沢一也「「殺された側の論理」と「犯罪不安社会」のゆくえ」『論座』2008年1月号(第152号) 重…

被害者及び死刑

宮崎哲弥・藤井誠二『少年をいかに罰するか』講談社:講談社+α文庫、2007年 過去の少年法をめぐる議論は、法務省や検察、弁護士、矯正施設など制度として少年犯罪に関わる立場の人間が、年齢引き下げなどで少年犯罪が減るかどうかという社会効果の観点から…

一橋大学機関リポジトリHERMES-IR

http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/ 例えば森村進の論文とか。どうぞ。http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/items-by-author?author=Morimura%2C+Susumu 以下は、以前取り上げた『思想』論文の姉妹編。こっちの方が読み易いだろうと思う。 鵜飼健史「ポ…

ポピュリズムと対抗政治

昨日の続き―と言っても、漠然とした問題関心が続いているだけだが―で、以下を再読。 鵜飼健史「ポピュリズムの両義性」『思想』第990号、2006年10月 そして、支配的な価値体系を構成していた全体性の破綻はもとより、この全体性という観念の存在そのものが疑…

法外なものごとについて

文庫が出ていたので、ようやくと言うか佐藤優『国家の罠』を読んだのだが、やっぱりと言うかいささか過剰なぐらい面白いな。佐藤の本は下に掲げたものぐらいしか読んでいないが、その中でも群を抜いている。で、色々考えさせられたので…一応何か書こうと思う…

民主主義についての不可解な使い分け

加藤秀一『ジェンダー入門―知らないと恥ずかしい』の末尾に、大略次のような主張が(橋爪大三郎の著書が示されつつ)書き込まれている。 「民主主義=多数決」という考えを捨て去らねばならない。なぜなら、民主主義の本質とは「議論を尽くす」ことであるか…

自由・自由・自由

安藤馨『統治と功利』勁草書房、2007年(主に10章)。安藤馨「統治と功利―人格亡きあとのリベラリズム―」『創文』第494号、2007年2月。 自由や自律に対して何らの内在的関心も寄せない、という立場は確かにインパクトあるなぁ。大屋さんは『自由とは何か』で…

幾つかの局地戦と「大局」

論座 2007年 11月号 [雑誌]出版社/メーカー: 朝日新聞社出版局発売日: 2007/10/01メディア: 雑誌この商品を含むブログ (6件) を見る 『論座』2007年11月号。小熊英二の談話と鈴木謙介の対談だけ立ち読み。小熊の記事は戦後左翼運動史を概説して「プレカリア…

力と魔

『情況』2007年9・10月号は、白井聡『未完のレーニン』特集。 情況 2007年 10月号 [雑誌]出版社/メーカー: 情況出版発売日: 2007/09/26メディア: 雑誌 クリック: 6回この商品を含むブログ (7件) を見る 白井さんが仲正昌樹や佐藤優、萱野稔人などと対談して…

デモクラシーの10冊と私が「ほんとうに望んでいたもの」

2007/08/29(水) 17:06:33 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-358.html 「民主主義とは何か」について、まとめを書きました。元記事よりは解りやすくなっているはずですが、まだ解りにくいところがあるかもしれません。色々疑問が浮かんでくる方は、デモ…

esperantoとconvention

2007/07/04(水) 19:58:43 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-350.html 田中克彦『エスペラント』(岩波書店:岩波新書、2007年) 田中克彦の著作は読まなければならないと思いつつ未だに読めていないが、新刊が出たので最初の一冊とさせてもらった。人…

私撰・政治学の名著30

2007/04/24(火) 15:43:55 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-335.html 山内昌之『歴史学の名著30』(筑摩書房:ちくま新書、2007年) 佐々木毅『政治学の名著30』(筑摩書房:ちくま新書、2007年) 山内の方が圧倒的に面白い。私が歴史学より政治学に比…

新自由主義からgated communityまでの雑感

2007/04/21(土) 00:08:04 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-334.html まだ途中までしか読んでいないが、デヴィッド・ハーヴェイ『新自由主義』(作品社、2007年)では、「理論としての新自由主義」と「実践としての新自由主義」が区別されつつ、議論が…

『世界』5月号雑評

2007/04/11(水) 17:00:51 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-332.html 『世界』5月号の幾つかの記事を読む。若干のコメントだけ。 丸谷才一と長谷部恭男の対談。戦争は政治体制(国体)を守るために起こる、という長谷部の議論はいつもながら面白いな、…

正しさは社会を良くするか

2007/02/08(木) 19:33:55 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-320.html パオロ・マッツァリーノ『つっこみ力』(筑摩書房:ちくま新書、2007年) 面白くて、とても良い本である。社会科学との付き合い方について、とても説得的な議論がなされており、『…

禁欲と冒険の間

2007/01/19(金) 17:56:18 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-315.html 鈴木直『輸入学問の功罪』(筑摩書房:ちくま新書、2007年) なかなか面白かった。論の筋はシンプルであり、翻訳者・出版社・大学のもたれ合いのために市場メカニズムを介した淘汰…

日本近現代史の語り方

2007/01/12(金) 21:51:49 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-311.html 井上勝生『幕末・維新―シリーズ日本近現代史?』(岩波書店:岩波新書、2006年) 牧原憲夫『民権と憲法―シリーズ日本近現代史?』(岩波書店:岩波新書、2006年) 岩波新書全10巻の近…

公共性の再転換をめぐって

2006/12/06(水) 21:02:28 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-298.html 恥ずかしながら、レポートから流用してみる。ハーバーマスの書評など本来恐れ多いし、後半に関わっては政治思想史と民主主義理論史をもう一度しっかり勉強し直す必要がある。統治機…

自由としての政治参加と公共性

2006/11/13(月) 15:15:03 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-291.html 大森秀臣『共和主義の法理論』(勁草書房、2006年) 「私的領域において誰にも干渉されない自由」と、「公共の場に出向いて、われわれの法的枠組みを自らの手で創りだす自由」との…

神話的暴力としての民主主義について

2006/11/08(水) 01:29:08 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-290.html 市野川容孝『社会』(岩波書店、2006年)は、「思考のフロンティア」シリーズとしては異例の200頁超の「大作」で、勉強になり、示唆に富む、とても良い本だ。 ただ、若干違和感…

神話が暴かれた後に何をすべきか

2006/10/29(日) 21:16:03 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-288.html 佐藤卓巳『八月十五日の神話』(ちくま新書、2005年) 終戦記念日は八月十五日である。日本政府がポツダム宣言を受諾した八月十四日や、降伏文書の調印が行われた九月二日ではなく……

想像力の欠如への解決策を示せ

2006/10/16(月) 22:56:15 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-284.html 坪井秀人『戦争の記憶をさかのぼる』(ちくま新書、2005年) 人間が「忘れる動物」であることを前提としながら、いかにして過去の戦争の記憶と向き合っていくことができるか。本書…

「やむをえない犠牲」はお前が負え

2006/09/04(月) 17:15:50 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-276.html 従って、この場合は文脈からして、「イラク解放のためのやむをえない犠牲」だとアメリカ兵は言いたかったのだろう。しかし、アメリカ軍の爆弾やミサイルで殺された当人や遺族にとっ…

イスラーム戦争の時代の憲法とは何か

2006/05/08(月) 22:35:47 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-220.html 内藤正典『イスラーム戦争の時代』NHKブックス、2006年。 実質三分の一ぐらいしか読んでいないが、良い本である。 もちろん、この本一冊でどうのこうのなるという話では有り…

生命学とエゴイズム

2005/07/30(土) 00:28:56 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-110.html 『生命学をひらく』森岡正博を読了。 確かに、著者のこれまでの仕事をわかりやすく要約するような内容で、手頃だと思う。これなら中高生にも薦められる。 だけれども、森岡が使う「…

アナーキスト向け

2005/07/21(木) 02:26:41 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-104.html 『アナキズム』第六号(特集:個人主義──叛逆の原点) 購入。とりあえず、特集記事の主だったところだけ読んだ。 一応以前にも紹介した立場から言うと、まぁ一般の方はわざわざ購入…

テキスト『財産権の理論』森村進

2005/05/01(日) 02:02:55 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-55.html 1995年、弘文堂。 主に自然権論に依拠した古典的自由主義者に分類されるリバタリアン、森村進の代表的著作。 自己所有権テーゼを擁護することに過半の精力を注いでいる。 ここで…

テキスト『自己決定権は幻想である』小松美彦

2005/02/28(月) 19:11:38 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-19.html 2004年、洋泉社新書。 小松は「自己決定」と「自己決定権」の区別を強調し、自己決定権の推進が、新自由主義や優生政策の具現化を助けるばかりか、権力の自己肥大化のプロセスに…

テキスト『感じない男』森岡正博

2005/02/17(木) 17:21:41 http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-9.html 2005年、ちくま新書。 http://d.hatena.ne.jp/kanjinai/ 森岡はミニスカの中に想定されるものは「白パンツ」でなくてはならないとし、ポルノが普遍的に持つ「女は結局感じる」と…